『蘭語譯撰』(らんごやくせん)は、文化7年(1810)中津藩主奥平昌高(まさたか)公により江戸で出版された、 わが国最初の和蘭辞書(日本語→オランダ語)です。 この和蘭辞書は『中津バスタード辞書』(中津市諸町、村上医家史料館に展示。下巻のみ)とともに、「中津辞書」と呼ばれています。 現在は中津市歴史博物館で保管しています。
『蘭語譯撰』を出版した昌高公は、鹿児島の島津家から中津に藩主としてこられた人です。
オランダへの造詣が深く、自身が蘭学を学びたいがために、45歳の若さで隠居したともいわれています。
また、オランダ人「シーボルト」とも親交が厚く、シーボルトが長崎出島勤務のおりの使節随行時に書いた、 江戸旅行日記「江戸参府紀行」の中に《中津候》として度々登場するほどでした。
昌高公は、家臣の神谷弘孝(源内)に命じて『蘭語譯撰』を、大江春塘には『中津バスタード辞書』を刊行させました。
中津が”蘭学の泉ここにあり”と謳われるほど蘭学が盛んだったのも、このためだったのでしょうか。
『蘭語譯撰』は、原語でNieuw verzameld Japans en Hollandsch woordenboek(新集日蘭辞書)といい、 『蘭語譯撰』という書名は、その凡例に「姑(しばら)クコレヲ題シテ蘭語譯撰トイフ」とあることからきています。
本書は5巻5冊本で保存状態もよく、5巻5冊が完全に揃っているのは全国でも7セットしか現存していません。
また、本書には全ての単語にわたって読み方をローマ字で書き込んであります。 それは外国人に利用されたものであると思われ、国際交流にも役立っていたことが伺われます。